さくらちっぷ

駆け出し同人サークルのブログです

塩のおはなし2

結構な期間があいてしまったなんらかである.

前回は塩の話をした.

今回も引き続き,塩について書いていこうと思う.

ファンタジーの塩である.

さて前回は,人間の生命活動の維持の観点から塩とは必要不可欠なものであると言った.

しかしことファンタジーにおいては,そうとも限らないであろう.

なにせ現実の人間とファンタジーの人間とでは,身体を構成する要素や原理が同じであるという保障がないからである.

極端な話,ファンタジー世界の人間はつちくれを食べて生活していても良いのである.

だが土塊を食べる人間というものはあまり描写されることはないように思う.

土塊を食べる人間は,あまり人間らしくないからである.

多くの創作物において,物語の主役は人間である.

人間である以上,人間らしい様子が描写される.

すなわち,ファンタジーの人間は現実の人間らしい生活様式をとっているように描写される.

だから水を飲めば,塩も摂取する.

正確には,水らしいものを飲み,塩に似たなにかを摂取する.

無論,多くのファンタジーではそうであるというだけあって,そうでないファンタジーもあって良いと思うが.

というわけで,ここではファンタジーの人間も塩,もしくは塩に似たなにかを摂取するという建前で話を進める. (塩に似たなにかとは真に塩とみなして良いものとする)

ファンタジー世界が現実世界の延長線上にあり,ファンタジーの人間も現実の人間と同じであるならば,ファンタジー世界においても塩は現実と同様の手法で入手できるだろう.

歴史をたどるのであれば,中世ヨーロッパ風のファンタジーであれば,日照や煮沸によって塩を獲得するというのが一般的な手法になると考えられる.

また真に万能なる魔法があるのであれば,製造過程に炎の魔法などが用いられていても不思議ではない.

雷の精霊が力を貸せば,イオン膜濃縮も可能であろう.

このとき,逆浸透膜やイオン交換樹脂と同様の特性をもつような膜を張る魔物や海藻,樹木などがあれば,その地域は製塩業が栄える国となる可能性もある.

特定の浜辺や湖に対して「海藻が塩を濃縮し,雷精と炎精が自然に塩を生み出している」のような設定を与えることもできそうである.

製塩は,多大な燃料を必要とする.

歴史上の製塩法は,どのようにして塩を濃縮するかという観点を中核に据えている.

単純な問題として,ただ単に海水を蒸発しきるには,薪や石炭がいくらあっても足りないからである.

だから人類は,ときに太陽を利用し,ときに火を利用し,ときに化学的な知識を利用し,塩を濃縮してきたのである.

ファンタジー世界においても,このセオリーは踏襲されるべきである.

すなわち,海水を濃縮するためのノウハウがどの程度まで進歩しているのか,またどのようにして進歩してきたのか,という観点を考えるべきということである.

製塩業が成功するためには,その土地が製塩に適している必要がある.

優れた環境のひとつは,塩水湖である.

塩湖のでき方はシンプルである.

湖に流入する河川があり,湖から流出する河川がないとき,流入した水分が蒸発し続けることでミネラルが濃縮され,塩湖が出来上がる.

カスピ海はこの典型的な例である.(カスピ海は,海ではなく塩湖である)

また海もこの例とみなすこともできる. 大陸の河川が流入しては蒸発を繰り返し,海水がしょっぱくなったと考えても良い. (実際には地殻の鉱物を少しづつ溶かしているから海水が塩を含むとする説の方が有力であるが)

とにかく製塩業をするのであれば,その地域の塩水は自然に濃縮されていた方が有利である.

塩分濃度の高い塩水は,製塩に必要な燃料または時間(もしくは両方)を削減する.

世界最大の製塩場はメキシコのゲレルネグロである.

この製塩所では,砂漠の海岸に海水を引き込んで濃縮し,天日で蒸発させ,太陽熱と風力で塩を結晶化させている.

まさに王道とも言える天日塩田である.

この製塩所が建設されたのは1957年である.

イオン交換樹脂の合成が始まったのは1935年であり,交換膜の合成が発表されたのが1950年である.1972年にフッ素系のイオン交換膜がNASAによって提案され,今日の製塩業に至っている.

なのでゲレルネグロではこれらのイオン交換膜を使用していない.

にもかかわらず,塩の生産量は世界最大である.

世界最大の製塩場は,非常に原始的な手法で,しかも最も経済的に塩を生産しているのである.

ゲレルネグロは,とにかく製塩に適した地域である.

まず,降水量が非常に少ない.東京の5%ほどしか雨が降らない.

そして強い風が吹き,かつ気温の変化が小さい.

なので水分の蒸発が効率的に進み,かつ塩水の撹拌も自然に行われる.

製塩に使われる燃料は,塩水の導入に用いられるポンプの分だけである.

このように,製塩は土地の性質によって効率が大きく上下する.

煮詰めるにせよ乾かすにせよ,塩水は濃縮されていることが望ましい.

これはファンタジーにおいても同様である.

塩の産出量が限られている世界においては,有力な製塩場の確保は国政の目的のひとつである.

そして製塩のノウハウもまた,重要な権益である.

ファンタジー的に塩水を濃縮する方法を,アバウトに列挙しよう.

  • 天日干しする

    • 日射量をふやす
      • 天候を操作し,雲を散らす
      • 地域の精霊や神にお祈りする
    • 太陽光を集める
      • 魔力で巨大なレンズを作る
      • 結界などで光を歪める
    • 熱効率を良くする(青緑色の色素があると太陽光の吸収率が向上する)
    • 風を起こす
      • 風魔法を使う
      • 風の精霊にお祈りする
    • 気温を高める
      • 太陽や炎の精霊にお祈(ry
    • 人工太陽を生成する
      • 濃縮された地下水を使って地下施設で製塩……なんていうのもファンタジー的で面白そう(非効率そう)
  • 煮詰める

    • 薪や石炭を燃やす
    • 魔石などを動力にした炉を使う
      • マジカルなバーナー・ヒーター
      • 何かの工場で用いる魔力機関の予熱を利用
    • 炎精の宿った石などを用いる
      • 溶岩の熱を閉じ込めた魔石
    • 頑張って人力で炎の魔法を唱え続ける
      • 製塩奴隷とかがいたりする
      • 魔法の修練と称して子どもを動員させる
  • イオン交換する

    • 錬金術的手法でイオン交換膜を合成する
      • 「海水をしょっぱくする魔法の布」みたいな名前で流通させる
    • イオン交換的な現象を引き起こす生物を塩湖などで放し飼いする
      • いっそのこと塩を生み出す魔法生物を登場させる
  • 海水を引き入れる

    • 水を操る魔法を使う
      • 波を起こして潟に海水を引き込む
    • 海岸近辺の地形を変形させる
      • 土の魔法で開拓する
    • 海水を炎の精霊が活発な地域に運ぶ
      • 転移魔法
      • 活火山の麓で製塩(噴出した泥水から製塩もアリ)
  • 雷の精霊や海の精霊のご機嫌で海水が濃縮される

    • これらの精霊に(ry

まだまだたくさんありそうである.

さて,ここまでは製塩に関していろいろ考えてきたが,岩塩の産地を細かく設定するほうがファンタジーにおいてはいろいろと楽なのは事実であろう.

現実世界においても流通する塩の7割程度は岩塩なのである.

なので頑張って製塩するよりも,掘ったほうが速いのである.

※ 諸説あります.現代の岩塩は掘る他に,水に溶かして採取してから製塩しなおすものもあります.こっちは海水から製塩したものとほとんど変わらない性質を持ちます.

上述したファンタジーの製塩方法も,岩塩の産出量が少ない場合か,製塩した方が低コストで大量に作れる場合において考慮されるべきなのである.

主流でない,ほそぼそとした製塩に関しては,わざわざ描写する必要も考察に熱を入れる必要もないのだ.

じゃあなぜファンタジーの製塩について考察したかというと,岩塩の採掘にはファンタジー的な要素を入れる余地が少ないからである.

パッと思いつく限り,鉱石の声が聞こえるなどの延長で塩の場所がわかる,などがせいぜいであろう.

魔石の鉱脈の周辺に岩塩も析出するとかもいいかもしれない.

魔石の成分が含まれた岩塩は洞窟内で光るとか,料理に使うとより美味いとか,希少で縁起が良いから貢物とかに使われるとか,そういう設定はアリであろう.

だがファンタジーの採掘場における主役は,現実世界にはない架空の鉱物たちである.

岩塩は文字通り,設定に味をつけるためだけに,チョロっとファンタジーらしさを追加するだけで良いのである.

ぶつ切りだが,今日はここまでとする.

塩の考察は気が向いたらまたやる……かもしれない.