魔法とテーブルマナー
あけましておめでとうございます.
なんらかです.
今回は,異世界の食文化について書いていきます.
異世界食文化では,やはり「ジャガイモ・トマト問題」がポピュラーですね.
あとは「小麦畑問題」などもあります.
いわゆる「ファンタジー警察シリーズ」ですね(笑)
しかし地球の現代史を元にした世界でなければ,こういった問題はあまり深く考える必要はありません.
そもそも世界や大陸のおこりからしてすでに違うので.食物も地球とはまったく違うものなって然るべきです.
でもそれでは地球に住んでいる我々では理解できなくなってしまうので,わかりやすくするために「小麦っぽい何か」を「小麦」と呼んだり,「じゃがいもっぽい何か」を「じゃがいも」と呼んだりするわけです.
ですが今日はこういった趣旨ではなく,「テーブルマナーと魔法の関係」について書いていきたいと思います.
「カチカチなステーキを風魔法で切って食べる」
「炎魔法を使い,食べる直前に目の前で肉を炙る」
「樽からワインを一口,水魔法で浮かせて取ってきて飲む」
とてもファンタジーな食事描写ですね.
切断魔法があれば,ナイフなんて要りません.
料理を魔法で口に運ばせることができれば,フォークなんて要りません.
魔法で流体を操ることが可能なら,スプーンも要りません.
流石にお皿などの容器は必要だと思いますが(笑)
このように魔法が生活レベルに浸透している文明においては,食事をしている最中にも魔法が登場することは十分に考えられます.
しかしファンタジー小説などの創作物では,食事中に魔法を使うシーンはあまりにも少ないようにも思えます.
もちろん,テーブル上で魔法を使うシーンがこの世に一つもないわけではありません.
有名なところですと,某星間戦争映画では主役の人がフォースを使って果物を持ち上げるシーンがあります.(私はあのシーンが大好きです)
しかし多くの架空小説では,やはり食事中に魔法を使うことはありません.
物を浮かせる魔法などがあっても,誰も食事中には使用しません.
これには表現の難しさや「リアルさの演出」など,創作上におけるいくつかの理由があると考えます.
そもそも読者・視聴者にとってはテーブル上で魔法を使うことは「マナー違反」な行為に映ることが多いと思います.
これは現代文明に「魔法を使うテーブルマナー」が存在していないので当然です.
商業用の創作物では当然ウケを狙う必要があるので,こういったテーブルマナーについては,わざわざ描写する必要性が薄いのです.
しかしこういった議論は作品をアウトプットする際にすれば良いので,このブログではしません.
それよりもその世界でのテーブルマナーの成り立ちや背景について考えるほうが,よほど「リアルなファンタジー」の構築に有意義ですよね.
こういった前提で,改めて「なぜファンタジー小説では魔法を使ったテーブルマナーが少ないのか」について書いていきたいと思います.
言い換えれば「テーブル上では魔法を使うことがタブー」とされている文明が,なぜ多いのかということです.
理由として最もわかりやすく,かつ説得力が強い論として,「宗教の影響」が一番最初に考えられます.
なぜならば,99%のファンタジー世界では宗教が必ず存在するからです.
そして99%,宗教は文明に多大な影響を及ぼします.
魔法などの神秘については,特に教会などの組織によって監視・管理,秘匿されることが多いですよね.
というよりも,魔法や神秘に関する権威を保つことが教会の主目的という世界観がは非常にポピュラーです.
こういった世界観では,テーブル上での魔法の使用を禁止することが非常に容易です.
「食事中に魔法を使ってしますと,魔法の神秘性を損なう」「食事中に魔法を使うことは背信行為である」といった考えが「教え」によって常識となっていれば,誰も食事中に魔法を使わなくなります.
そもそもとして,宗教の「教え」はその宗教のおこりの歴史によって決まります.
後述する他の理由は,総じて「現実的な面で魔法を使うことができない・好ましくない」という例です.
こういた理由が元になって宗教の「教え」に組み込まれた,というのは非常に普遍的であり,かつ歴史的でもあります.
第二の理由として,そもそも食事中に魔法を使うことができないということが考えられます.
魔法などの神秘が「呪術」などの非生活的な方面に偏っている世界観では,こういった描写はできません.
魔法=兵器となっている世界でも,もちろん無理ですよね.
低出力で多目的な魔法が存在しない世界においては,食事で魔法を使うことはほぼ不可能です.
ステーキを切ったつもりで,皿が真っ二つになったら元も子もありません.
肉を炙るたびに火事が起きたら,店がいくつあっても足りません.
第三の理由として,食事で魔法を使うよりも食器を使った方が便利だから,ということも考えられます.
魔法の使用に際し,毎回長々と詠唱するような世界観ではとても食事中に魔法を使うことはできません.
簡易魔法でも発音の必要がある世界では,魔法で料理を口に運ぶことは大変ですよね.
ステーキや果実の切断には魔法を使えるかもしれませんが……
なお,食事のたびに杖を取り出す必要があるということは,食事中に魔法を使わない理由にはなりません.
杖がナイフ,フォーク,スプーンの役割を果たせるのであれば,これらの食器は文明に登場することはない(もしくは淘汰される)からです.
最後の理由として,魔法は武器になり得るという点です.
無論,ナイフやフォークでも人は殺せます.
ですが魔法の方がリーチが明らかに上ですよね.
達人級の投擲テクニックがあれば,テーブルの向かいにいる人間を殺めることも可能でしょう.
しかし魔法の方が殺しのバリエーションが豊富です.
ステーキを切るフリをして首が切られたら,堪ったものではありません.
こうした暗殺や謀殺を防ぐため,魔法禁止のテーブルマナーが慣習として定着したという論は,非常に論理的かつ納得の行くものだと言えます.
この世界観であれば,杖を食事中に持ち出すことなどもちろん許されません.
現実世界に当てはめれば,食事中に拳銃を取り出すようなものですから.
私自身としては,第四の理由「魔法は武器となりえるから」が最も説得力があると思います.
こうした慣習が宗教の「教え」に汲まれ,「食事中に魔法を使うことはタブー」という常識が生まれたのであれば,「禁忌を犯してでも食事中に魔法を使う確信犯」や「宗教の外にある人物」以外は食事中に魔法を使うことはありません.
大体のファンタジー小説の世界観では,これが「魔法を使った食事シーンの少なさ」に繋がっていると言えます.
私自身,食事中に魔法を使うような描写が本当に大好きです.
しかしこういった描写は,血なまぐさいファンタジーと常に隣り合わせなのであります.
その点では,アメリカの銃社会と少し似ているのかもしれませんね.
しかし「冒険者」などの職業が一般的であるような半未開時代においては,食事中に魔法を使うことは珍しくないのかもしれません.
杖を持つメリットとデメリットは,常に等価とは限りません.
街道を歩く際,魔物を襲撃を退けるために魔法が必要な世界なら?
街の入口で門番などに杖を取り上げられることはほとんどないでしょう.
文明社会で生きていくために魔法が必要なら?
きっと魔法犯罪を防止したり取り締まるような社会機構が生まれていることでしょう.
「カチカチなステーキを風魔法で切って食べる」
「炎魔法を使い,食べる直前に目の前で肉を炙る」
「樽からワインを一口,水魔法で浮かせて取ってきて飲む」
ファンタジーらしい仕草の中には,そのファンタジー社会の葛藤が詰まっているのです.
今日はここあたりで終わります.
テーブルマナー以外にも,魔法がある世界での調理方法も面白い話題ですよね.
こちらについても今後書けていけたらなぁと思います.