さくらちっぷ

駆け出し同人サークルのブログです

塩のおはなし

なんらかです.

ずいぶんと間のあいた更新となりましたが,元気に生きてます.

今回は塩について書いてみます.

 

古来,塩は調味料ではなかった.
厳密にいえば,古代にも塩を調味料として活用している人間はいた.
しかし,多くにとって塩は調味料ではなかった.

塩は生命活動に必要不可欠な物質である.
塩がなければ,我々人間は人間の形骸を保つことはできない.

シンプルな理論としては,塩による浸透圧が挙げられるだろう.

人間の身体の6割は水でできているが,我々は地面に立つことができる.
水のように地に落ち飛散することはない.

これは塩のおかげである.
塩で浸透圧を調整しないと,人の身体は萎れ,立つこともままならない.

もちろん,塩は他にも体内で様々なはたらきをする.

とにもかくにも,人間は塩を体内に取り込まなければ生命活動を維持することができない.


必須アミノ酸と呼ばれるアミノ酸が存在する.
これは人間のタンパク質を構成するアミノ酸のうち,体内で生成できない(もしくは十分に生成できない)アミノ酸である.
なので人間はそのアミノ酸を栄養分として摂取する.

塩も同様である.
塩は体内で生成することはできない.
代謝として,汗腺や腎臓から排出されるのみである.(こうして体内のpHや浸透圧を調整する)
なので人間は塩を外部から栄養分として摂取する.

塩分の不足で死亡する例の多くは,昏倒による外傷や脳機能への障害であろう.
細胞レベルでの活動が止まるので,当然脳も働かなくなる.
結果,死ぬ.単純である.


絶食や断食という文化があるが,それでも人は水と塩だけは摂取する.
でないと死ぬからである.

必須アミノ酸は2ヶ月程度摂取しなくても死ぬことはない.(死ぬこともあるが)
だが水と塩がないと人間は確実に死ぬ.


塩は人間にとってなくてはならないものである.
なのでこれを求めて戦争もする.


文明が築かれる前,人間は狩りをして食物を得てきた.
なので塩には困らなかった.
なぜならば動物の身体には塩分が多量に含まれているからである.

しかし農耕を覚え,人口が増加すると,塩が不足し始めた.
麦には塩が含まれていないからである.もちろん米にも.


なので人類はより直接的に塩を求めた.
製塩業の始まりである.

最もシンプルな製塩方法は,岩塩を採掘することである.
太古の海が生成した塩の塊は,現代でも食用工業用問わず人間の手によって消費されている.

もちろん,岩塩が取れない地域も存在する.(日本もその一つである)
なので人間は塩を作る.

すなわち,海水から塩を取り出す術を,人間は生み出したのである.

原始的な手法としては,海水を干すものであろう.
塩田に引き込んだ(もしくは頑張って汲み上げた)海水を放置する.
そうすると塩ができる.
実際の天日製塩はもっと細かな工程からなるが,原理はこれだけである.

しかし天日製塩に用いられる塩田は,日照時間という土地の才能が大きく影響する.
当然ながら高緯の地域では不可能であるし,降雨量の多い地域では乾く間もなく雨水に塩が溶ける.


なので人工的に海水を蒸発させる方法が生まれた.
濃縮した海水を火にかけ煮沸させる手法である.

しかしこれがすこぶる生産効率が悪いものだから困りものである.
多くは作れないのに,沿岸部の特定の地域でしか作れないからである.


特殊な製塩方法としては,地下水脈を利用したものがあるだろう.
当たり前だが,地下水には大量の鉱物が溶け込んでいる.
そしてその中には塩化ナトリウム,すなわち塩も含まれる.

海岸のない内陸部では,この地下水を利用して塩を取り出すといったこともなされていた.燃料には,ときに地下に溜まったガスが利用された.
岩塩がない土地ではこういった苦労も多々あった.


また内陸部は塩を運び込むための道も作られた.
すべての道はローマに通ずというが,最も大きな道は塩の道だったともいわれている.
中国では沿岸部から内陸部に塩を運ぶだけの仕事も存在した.
海岸を持たないということは,こうした輸送にコストをかける必要があることを意味した.


塩の需要と供給のバランスは,常に国策として舵取りがなされてきた.
供給量が足りなければ,塩に税をかけるか,塩が採れる地域を侵略したのである.

塩の税,すなわち塩税は,それそのものが革命を誘引することにもなった.

塩の専売は,国庫を潤す最も簡単な方法の一つである.
麦は腐る.
鉄は錆びる.
しかし塩はすこぶる安定的な物質である.
腐りもしなければ,溶けてなくなることもなかった.(せいぜいが固まる程度である)

なので国は塩税をかけたがった.
そして民は塩税をかけられたがらなかった.
塩は誰もが欲しがるし,塩が手に入らなくなったら死ぬからである.
これが一因となってフランス革命が起きたりもした.


とにもかくにも,塩とは調味料である以上にもっと重大な価値を持っていた.
有名だが,サラリー(給与)の語源はSal(塩)である.
塩は貨幣としても扱われていた.


また,塩は神様への貢物でもあった.
塩を直接捧げることもあれば,生贄を塩漬けにしたりもした.

塩は腐らず,防腐剤としても活用されることから,汚れを祓い清めるものとしても扱われた.
宗教においても塩は重要な地位を築いているのである.


塩が調味料として大衆から認知され始めたのは,近代の出来事である.
海水に電極を挿して電流を流すと,簡単に塩が手に入る.

これにより,塩が安価かつ安定的に供給されるようになった.
人類はようやく料理の味付けに塩を惜しみなく使えるようになったのである.

当然だが,美食というものも近代以降の文化である.
古代や中世の聖職者や貴族といった支配階級の人間でさえ,死ぬまでに摂取する食物の大半はパンであった.

胡椒やにんにくなどの香辛料も当然,保存料として用いられた.
であるから,当時の美食とは燻製や塩漬けに他ならなかったのである.
(それとワインとチーズである)


なお,現代では塩の大半は工業用に使用されており,日本における食用塩の割合は2割以下である.
一般的には塩は調味料として認知されているが,多数決的に見ると現代でも塩は調味料ではなかった.


さて,こんな題材について書こうと思ったのは,なんだか最近,自分が高血圧気味であると感じたからである.
塩分たっぷり油分たっぷりの食事はたまらない悦楽であるが,そろそろ自制するべきなのであろう.


また今回,堅苦しい論文体のような書き方をしているのは,なんだかんだで口語体よりもこっちの方が物が書きやすいということを悟ったからである.
なのでしばらくはこんな書き方を続ける所存である.


今回は塩の歴史を長々と語ってしまったが,次回はファンタジーの塩について書こうと思う.