さくらちっぷ

駆け出し同人サークルのブログです

ファンタジーの航空戦力について 2

なんらかです.

前回に引き続き,ファンタジーの航空戦力について考えていきたいと思います.
前回は現実世界の航空機を主題にしましたが,今回は剣と魔法のファンタジー世界の航空機を扱ってみます.

さて,そもそも異世界ではどんな航空機が登場するでしょうか?

中世ヨーロッパベースのハイファンタジーではせいぜいが空飛ぶほうきや魔法のじゅうたん程度でしょうが,SFライクな世界観であれば重力圏内滞空も可能な大型の飛空空母なんてものも登場します.

これらを考察する際には,まず分類分けが必要になりそうです.

個人用飛行装置

ファンタジーでは魔法使いや魔女がほうきにまたがって空を飛んでいますが,現実はそう甘くないのです. 個人用の飛行装置なんてないでしょう……なんて思っていましたが,なんと現在では個人用のジェットパックがすでに開発されています. 個人用の飛行装置はもはや空想上の産物ではないのです.

この分類には一人乗りの戦闘機などを含めませんが,そうした航空機なしでもジェットパックなどによる個人飛行は現実でも可能な技術になりつつあります.

現実において,人が飛ぶには最低でも人ひとりにかかる重力と同等か,それ以上の上向きの力をかける必要があります. ジェットパックの重量がどの程度なのかは不明ですが,少なくとも100kg程度の重量物は持ち上げられるようなパワーが必要なのです.

これはファンタジーの世界でも同様です. ハイファンタジーを名乗る以上,その世界の重力や大気の密度は当然地球と異なるでしょうが,今回は地球と同等であると見立てて考えてみます.("人"が生息している以上,地球と酷似した背景を持つ環境であるという仮定は有効であるように思います)

先程述べたように現実世界で人一人を宙に浮かせるのであれば,最低でも100kg程度の重量物を持ち上げる必要があります. これはファンタジーでも同様ですが,魔法が存在する世界であれば飛行対象となる物体はもう少し軽くなっても良いでしょう. ほうきがジェットパック(と燃料)ほどの重さがあるとは思えませんからね.

ここでは現代社会の標準的な男性の体重である70kgを基準にしてみます. 魔法世界の住人の大半が空を飛べるのであれば,少なくともほうきは70kgの物体を持ち上げなければなりません. 実際には飛翔できる性能があるのですから,100kgくらいはなんとかなるのでしょうが.

ちなみに100kgというのはなかなかに重く,ベンチプレスで考えると週2くらいでの筋トレ歴で1年くらいかかるそうです. 逆に言えば,ほうきはそれくらいのパワーを代行するわけであります.

さて,では重量70kgの物体を100kgの物体を持ち上げられる力で持ち上げるとどれくらいの速度が出るのでしょうか?

シンプルに考えると,少なくともほうきは100kgに重力加速度9.8m/s2をかけた力を持っています.そこに70kgの物体に重力がかかるのですから,重ね合わせの原理によって30kg x 9.8m/s2の上向きの力が物体に働くわけです.(かなり強引な解釈ですが……)

つまり
F = ma = mg = (100 - 70) x 9.8 = 294[N]
です.

これを速度の公式に当てはめると
mv = Ft
v = Ft / m = 294 x t / 70 = 4.2 t[m/s]
です.

つまりは上向きに加速度4.2m/s2で等加速度直線運動が可能なわけです. 静止状態から1秒後には4.2m/sに加速します.これは時速1km程度の速度です.

ちなみに今回の仮定では体にかかるGは単純計算で1.43Gくらいです.体には重力の1.5倍程度の力が加えられることなります.

ちなみにエレベーターのGは大体1.05~1.10G程度です.つまりエレベーターに乗っているときは体重がちょうど一割増しになった状態です.

また普通に運転している車のGは強くても0.3Gです.つまり運転していたりバスに乗っていたりするときは,体は進行方向の逆向きに体重の3割程度の重力を受けているわけです.よほど急加速すれば別ですが.

そう考えると,+0.43Gの加速度はなかなかのものであると言えそうです.乗り心地は,少なくともエレベーターに乗っているときのあの感覚の1.3倍くらいあります.

これが70kgの人を980Nで持ち上げた時の状態なわけであります. 実際には出力を調整できるはずなのでこの限りではありませんが,一般的なほうきであればこれくらいはできるのかもしれません.

体重が軽ければもっと早く飛ぶことも可能です. 体重40kgの子供ですと,最大で2.5Gの圧がかかります.そのかわり14.7m/s2で垂直に上昇できるわけです. 実際には魔力の適正とか容量とかの問題で,子供はそんなパワーを出せないのかもしれまんせが.

しかしエレベーターを基準に考えてみても,+0.1Gで垂直に上昇するには体重の1.1倍のものを持ち上げられる性能がほうきには求められます. 魔法使いが魔法で物を浮き上がらせたりするシーンがありますが,一般的な魔法使いが腕力の代行として10kg程度まで持ち上げられるとすると,箒はその5倍~10倍は頑張る必要があるのです. そう考えると,ほうきはなかなかに高価なものであるのかもしれませんね.

推力のメカニズムはマナ的な解釈でいくらでも可能ですのでいろいろな設定が考えられますが,個人用の飛行装置には少なくともこれくらいの力が必要になりそうです.

周辺の魔力を力場に変換するとか,反重力的な場を魔力で形成するとか,そもそも重力を断ち切るような仕組みがあるのかもしれません. もしくはプロペラやロケットブースターのような推進装置が魔導技術によって内部に仕込まれているケースも考えられます.

ちなみに某猫型ロボットの頭に着けるプロペラは,実は反重力装置であるそうです.恐るべし22世紀の技術.

私の場合は,魔法障壁のような"歪み"を応用した反重力場であるとするのがファンタジー的な解釈で好きです. それで浮遊した後で,魔力の噴出などで推進力を得るなんていうのが結構スタンダードな気もします.

巡航用の航空機

この分類では戦闘機や旅客機などの,ある程度の高速で特定区間を移動する航空機を考えてみます.

これらは個人では飛行できず,大掛かりな機械(or装置)を複数人で動かす航空機になります. (まあ最近の戦闘機は一人でも操縦できますが……)

こうした巡航機は,個人用の飛行装置と比べてかなり高速かつ効率的に長距離を飛行できます. (少なくとも個人用のジェットパックで海を渡るには,弾道ミサイルと同様のことをする必要がありますからね)

さて,ほうきのような飛行装置があるのであれば,空飛ぶバイクのような代物があっても不思議ではありません. (幼女戦記とかでは空飛ぶ馬のような機械も登場したりしていますね)

そもそもファンタジー世界では鳥獣や飛竜といった,空を根城にする魔物による驚異に人々はさらされています. ならば人類もそれなりな航空戦力を持っていると考えるのが自然でしょう. 局地的な戦闘はほうきなどを使う航空魔導部隊とかでどうにかなるとしても,国家はそれ以外にも各地に動ける部隊を欲して然るべきです.

そうなると,当然巡航用の航空機が登場するのであります. これはエアバルーンから飛行船が生まれたのとちょうど同じ流れです. 技術の進歩によって,航空機は飛べることから,速く遠くへ飛べることが重視されるようになるのです.

ではファンタジーの巡航機とはどのようなものでしょうか. グランブルーファンタジーを例にすると,海上船に羽やプロペラの生えた木製の船から,魔獣や動物の翼を模した小型の船,帝国製の黒鉄を纏ったものものしい船まで,実にさまざまな航空機が登場しています. (これは宙に浮く島々が舞台であるせいでもありますが)

他に調べてみても,グランブルーファンタジー以外にも現実世界の帆船をモチーフにした巡航船は結構多いような気がします. (逆にバルーンベースの飛行船は少ないように感じます)

例外はFF12です.あれは某星間戦争映画のようなSFライクなマシンが大量に登場しています.空中要塞バハムートに至っては完全にコードギアスダモクレスです.まあFF12の方がR2よりも先に出ていますが. (FF12は地表に汎用金属を腐食する菌が生息しているため,航空技術が急速に発達したという設定です)

航空機の構成が現実世界の海上船に似通っているのは,物語の舞台を空にしたことから,空軍の動きを現実の海軍と重ねるためであるように思います. つまりファンタジーの航空機は現実世界の海軍が空を飛んでいるようなものに近いわけです.

そうなると,なるほど確かに船らしい船が多いのも頷けます.

ではファンタジーの巡航船は,どれくらいの重量物になるのでしょうか.

現実世界の戦闘機の本体重量は,大体15tです. 木製のものになるともっと軽量化されるので,実際の離陸重量は5t程度です. 昔は軽量化をしなければまともに飛べなかったので,更に軽いのかもしれません.

ちなみに現代の軽量機の総重量は0.7t~1.5t程度です. かなり軽いですね.

なおバイクが空を飛ぶとすると,現実世界のバイクは大体300~400kg程度だそうです.原付きはさらに軽く,70~90kgです.

少なくとも,ファンタジーの汎用小型巡航機は70kg~となりそうです. もちろん魔法が存在しますから,ジェネレーターなどの小型化や効率化などでさらに軽い場合もありますが. さらにいうとそもそも機械の形をせずに,衣服とかで飛ぶ可能性もあるのですが. さらにさらにいうと魔法で羽を生やすのが一般的な世界なのかもしれませんが.

今回は若干SFチックなミリタリーに傾倒して考察していますが,そもそもファンタジーなので飛行装置も複数の形骸をなしていて問題はないのです.

ただし重要なポイントとして,燃料やそれに当たる魔石などの規格は最低でも国家内程度で統一されている必要があります. 機械的にしても魔導的にしても,何かしらの理論で動いていると解釈するのであれば,エネルギーの供給手段くらいは描写されて然るべきだからです.

「これ一般的な巡航機ですが,永久機関で動いています」なんて言われたら,その世界の人類は文明力が高すぎて多分宇宙に進出していることでしょう.

特殊な動力で動くのは主人公やキーパーソンが乗るようなオーバーテクノロジーの産物かもしくはそれに準ずるコスト度外視のワンオフ機で良いのです.

逆に言えば,それ以外の航空機は何かしらの補給を必要として稼働していると考えるのが自然でしょう.そうなると規格統一の必要性が高まってくるのも頷けますね.

さて少し話がそれましたが,ここでは巡航機が最低でも70kg程度あると仮定して考察してみます. つまり最小構成の巡航機はほうきの2倍以上の浮力を持つわけです. さらにここからある程度の前方推進力が必要になります.

もしもこれがバイク状の機械であるならば,内部にはフローターと推進機構が積み込まれていることになります.あとはジェネレーターないし動力となる魔石などをはめ込む空間も必要になるでしょう.

巡航機の形状は特にその世界のフローターの形によって大きく変わるものと思われます. 極端な話,フローターがほうきしかなければ,ほうきを複数束ねて浮き上がるビックリメカが誕生しても不思議ではないのです.

もしくは天空の城を舞台にした某映画のように,虫の羽を模した飛行装置になるかもしれません.実際に使ったらめちゃくちゃうるさそうですか.

ちなみにはばたき機構を持った航空機はオーニソプターと呼ばれます. 人類ははばたく鳥や虫を見て空を夢見たのですから,もしかしたらファンタジーではオーニソプターが主流な航空機となっているかもしれません. 天使の羽が航空技術の産物とするのであれば,アレはオーニソプターの進化形態なのです.

さて,小型の巡航機はこの程度ですが,大型のものになるとそれなりな浮力と推進力が求められます. 原付きの馬力ではトラックやバスを動かせないのと同じです.

飛行船については前回も少し書きましたが,人員輸送用であれば最低でも20~30tの積載量が必要です.

なお一般的な路面バスの定員は70~80名ですが,仮に80人を同時に輸送するとなると,平均体重が70kgだとすると5600kgの重量物が機体に積載されることになります.

少なくとも人数分の小型巡航機程度の機能が必要になりますから,最小構成を用意すると総重量は確実に10tをオーバーします. さらに旅客機にもなるため,内部にある程度の空間や椅子などの物品も必要になります. そのため,よほど軽量化できても15tが下限でしょう.

少人数用のマイクロバスレベルであれば,乗組員は高々20人程度なので,5~7tくらいには軽量化できるかもしれません.

なお現実世界最多の輸送人員数を誇るエアバスA380は最大で525人輸送することができます. ちなみにシートをすべてエコノミーにすると,なんと1000人以上乗ることができてしまうのです. エアバスの最大離着陸重量は386tと,なかなかのものです.

実際のファンタジー世界は,中世ヨーロッパベースであればそんなに人口は多くないでしょうから,流石に1000人規模の民間船が登場することは少ないかと思います.

ちなみにフェリーの旅客定員は大体400~700人です. 総人口が減ると仮定すると,魔法世界の一般的な巡航機の定員は大体100人程度になるような気がします.

そう考えると,一般的な人員輸送機の重量は30t程度にはなるのでしょう.

大型の輸送用の航空機

物資輸送船や飛空空母などの,大型航空機についての分類です.

これらの大型船は,ただの人員輸送機と違って圧倒的に積載重量が重いです. 人を積むよりも食料や鉄を積んだ方が,船は圧倒的に重くなるのです.

流石に現実世界ではこれらの大型輸送航空機は実現されていません. だから大体の物資や軍隊は船を使って海の上を行くわけです.

前回少し書きましたが現代の原子力空母の排水量は10万Tです. 船の積載重量を正確にキログラム単位に直すのは面倒なのでしませんが,1T = 1tと近似すると空母は10万tもの重さを誇るわけです. なおコンテナ船は排水量ではなく総トン数で重量を測りますが,大体は空母と同じくらいの積載重量があるそうです.(トン数は体積の単位ですが)

つまり,現実世界の空母や大型輸送船は少なくとも100,000tの重量を抱えて海を泳いでいるわけです. もちろん船体の重さもあるので一概には言えませんが,貨物船はそれだけ大量の資材を積み込んでいるのです.

ちなみにバケモノサイズの貨物船ともなると,載貨重量トン数は50万Tを優に超えます. 石油タンカーの凄さがわかりますね.

さて,前置きが長くなりましたが航空輸送機はこうした海上の貨物船や空母の役割を代行するわけであります. 機体は軽量化できても,資材は軽くなってはくれません. つまり10万tもの重量物を抱えて飛ぶことになります.

実際には人口の少なさなどの影響から,資材の量はもっと少なくなると思います. しかし甘く見積もっても1万tは運んでほしいものです. (まあ最大離着陸重量1万tでも現代の技術では無理ですが)

そうなると,ファンタジーのフローターは現代のプロペラやジェットなどと比べて圧倒的な性能を誇ることになります. まあ70kgの人間をほうきだけで浮かせられるほど大出力で小型なフローターが存在するのですから,飛空貨物船も実現できそうではありますが.

もしくはいっその事,大気の浮力を大幅に向上させる魔術機構のようなものがあっても良いかもしれません. 空中を擬似的な海にしてしまうなんて,ファンタジーの粋であるような気もします.

こうした過程であれば,ファンタジーの飛空艇が海上船の形をなしていることにも納得がいきます.

もしくは,そうした装置はほうきなどの小型フローターとは別の技術で動いているという設定でも良いかもしれません. 設置面積が四方10m程度必要な大型装置で浮力を得ているとすれば,貨物船などはどうあがいても巨大な構造物とならざるを得ません. その結果,海上船のような形状になったと説明すれば,結構納得の行く設定であるように思います.

空母についても貨物船と同様のことが言えますが,こちらは貨物船よりももう少し縛りがゆるくなります. 艦載機や兵装が軽量化されていれば,現実の空母ほど重くする必要は無いからです.

しかし巡洋艦駆逐艦と違いそんなに機動性は重視されないはずなので,空に浮いていても結構な重量はあるのかもしれません.

なお空母以外の軍用艦は現実の戦艦ほど重くはならないと思います. 個人用の飛行装置が発展していれば,艦載機という概念が薄くなるかもしれません.その場合,空母という概念が無くなる可能性も否定できません.

まとめ

なんだか結構ガバガバな考察となりました.

ほうきにせよ飛空艇にせよ,動作原理の設定が完了しても次は理論とデザインの問題が浮き上がってきます.

仮にほうきが上述の理論で動いていたとしても,そもそも何故ほうきの形状になったのかを考える必要性がでてきます. 現実世界では宗教観や魔女の存在が絡んできていますが,異世界にはほうきで股を擦る魔女は必ずしも存在しないのであります.

そもそも棒きれに股を据えて空を飛んだら,拷問レベルの痛みが生じるのです. それでもほうきで空を飛ぶのであれば,それなりな解釈の必要性が生じます.

たとえばほうきを使う人は痛みに耐える訓練を受けているだとか,実はサドルが付いているだとか,特殊な力場が登場者を守るだとか,反重力状態なのでほうきにまたがっているわけではない(つかまっているだけ)とか,なにかしらの解釈を用いてほうきで空を飛ぶ正当性を説明しなければなりません.

さらに,なぜほうきを使うのかについても説明する必要があります. ほうきは空を飛ぶのに十分な能力があったとしても,ベストな道具ではない可能性もあります.

フローターがほうきに埋め込めるようなサイズであれば,そもそも道具を使って飛ぶ必要がないのです. 靴裏に仕込めるなら,わざわざほうきに乗る必要はないですね.

個人的な解釈としては,シンプルな推進力を持つ簡易的な飛行装置であるから,というのは一番スッキリします.

現代ではほうきで飛ぶ魔女はほうきの掃く方を背中方向に向けていますが,昔は掃く方を正面に向けていたそうです. なぜ現代では逆になったかというと,そっちの方がロケットブースターなどイメージが重なりやすかったためです.

空想上ではただのイメージの問題ですが,創作上ではこのイメージが非常に大きなポイントとなります. つまり,ファンタジーのほうきはフローターとブースターを兼用していたと考えるのが自然なわけです.

実際,ほうきに乗っている魔女や魔法使いは正面方向に飛んでいることが多いと思います. これはほうきのケバケバから推力を得ているためなのです.(と,私は解釈しています)

この解釈であれば,ある程度ほうきである必然性が出てくると思います.

後は日常的な物品に安価であるとか,フローターがほうきを掃除用具として操る際に便利であるとか,そうした理由もほうきが飛行装置である理由としてアリなのではないでしょうか.

さて,結構ガッツリと書いてしまいましたが今日はここまでにします.

空を飛ぶ摩訶不思議な物体はファンタジー特有の舞台装置であるので,考察するべき面はまだまだたくさん存在します.

ただの舞台装置として飛空艇を用意するのではなく,日常的な交通手段から軍事用まで様々な観点から設定を練るのは,とても有意義であると私は考えます.