さくらちっぷ

駆け出し同人サークルのブログです

異世界パン

ご無沙汰してます.

なんらかです.

今日は異世界のご飯について書いてみたいと思います.


異世界メシは昨今流行りのテーマのひとつでございますが,何か物足りないものもあると思います.

それはズバリ,リアリティです.

説得力と言い換えても良いでしょう.


日本は非常に衛生的な国なので,当然フィクションも衛生的なのでございます.

流行りの異世界創作物ではキレイな机やテーブルクロスの上で,これまたキレイな木製容器と金属の食器が立ち並ぶわけです.

そしてチキンブイヨンで煮込んだうまそうなスープや色とりどりのサラダに舌鼓を打つことができます.


さて,変な前置きが挟まってしまいましたが,改めて異世界のご飯事情を考えていきたいと思います.

異世界は地球とは異なる環境なのですから,生育している動植物もまた地球とは異なります.

つまり食べられるモノが根本的に地球とは違うわけです.


例えば異世界の食卓にふっくら焼きたての「パン」が出てきたとして,当然私たちはそれが小麦を粉にして練って焼いたあの「パン」であると考えます.

すなわちパンを登場させるためには最低でも「小麦」と「水」が必要なわけです.

(大麦やライ麦燕麦とかもあるけど,ふっくらしたパンにはグルテンが必要なので,そうしたパンにはやはり小麦が要ります)


しかし地球とは環境が根本的に異なる異世界において,そう簡単に「小麦」が生えているものなのでしょうか?

私の答えはNOです.

小麦にかぎらず,あらゆる作物は進化と品種改良の果に今の形を成しております.

そもそも土壌や地理が違い,歴史が違う世界において同じ作物が存在しうるはずがないのです.


しかし「小麦的なもの」であれば生えていてもおかしくありません.

そしてその「小麦的なもの」がその世界では「小麦」と呼ばれていてもおかしくはありません.

この仮定があれば「小麦」を製粉して焼いたものが「パン」と呼ばれているという設定にも納得がいくというものです.


つまり異世界に「パン」を登場させるには,「パンのイデア」や「小麦のイデア」を通して「その世界でパンと呼ばれているもの」や「その世界で小麦と呼ばれているもの」を明示的・暗示的に定義してやる必要があります.

まぁこれはパンに限った話ではありませんが,実在と表現を突き詰めれば異世界のあらゆる事物に対してこうした定義が必要になり,無限の労力が必要になってしまいます.(言語なんかはその典型例で,異世界人が日本語や英語などの地球上の言語を話している訳がないのです)

だからこうした説明を省いて一元的に「パン」として「小麦と呼ばれる植物を粉にして焼いたパンと呼ばれる食べ物」を登場させるわけです.


まとめると「面倒くさいしパンって言っちゃえばいいじゃん」という結論になったわけですが,それでは最初にふっくら焼きたてパンにケチをつけた意味がありません.

私が大切だと思っているのは,上で述べたようなごちゃごちゃしたパンの定義ではないのです.


ですが大前提として,パンに使われている小麦は異世界独自のものであるという認識は必要です.

マイルドに言うと,異世界では地球と比べて小麦の品種が違うのです.


通常,小麦に限らずイネ科の植物は背の低いものが栽培品種として好まれます.

倒伏のリスクを下げるためです.


では異世界ではどうでしょうか.

異世界でも地球と同様に,背の低い品種が好まれるのでしょうか.

私は違うと考えます.


ファンタジーには魔法なんていう便利な設定があるのですから,植物もそれに従っていると考えるのが自然です.

例えば土や大気中に魔力なるものが存在するのであれば,大気の魔力を好む品種は背が高くなるでしょう.

逆に土の中で育つ麦なんていうのも面白いと思います.

「発見が難しいことから高級食材とされている」なんて設定があれば,特産として十分な魅力があるというものです.(発芽する前に収穫する技術が必要となれば,麦刈り職人なんて職業があったりするともっと面白いですよね)


そもそも植物は天敵が存在しなければ基本的に背が高くなるように成長します.

言わずもがな,光合成をするためです.

しかしファンタジーではしばしばその大前提が崩されることがあります.

さらには現実では食べられないモノですら食材にしてしまうこともできるのです.

逆に現実では食用とされているモノでも,食べられ方が違ったりもします.


例えば,木は人間には食べることができません.

難消化性の食物繊維を分解するだけの細菌や微生物が腸内に存在しないからです.

しかし実際には,一部の木の幼芽は食べることができます.

いわゆる山菜というやつです.

時期を限定すれば食用になる植物は意外と多いのです.


ちなみに食用樹木の研究は意外と進んでいます.

近い将来,難消化性の食物繊維を利用してダイエット食を作ったりできる,かもしれないと言われたりもしているのです.


少し話がそれましたが,重要なのは地球上では基本的に樹木自体は食べられていないということです.

木の幹にかぶりついても惨めな気持ちになるだけですからね.


しかしファンタジーでは実際に木の幹が食べられるかもしれません.

例えば木の表面に寄生する菌類がいたとして,その菌に寄生された木の皮は食用になる,なんて設定は面白いと思います.

消化出来ない繊維が菌のお陰で可食性をもつようになるのであれば,その地域では菌による食用樹木の栽培が農業になったりしそうです.

木の粉パン,なんていう食べ物が出て来るとまさにハイファンタジーです.