異世界の文明
なんらかです.
唐突ですが,異世界の文明とはどのようにして出来上がるのでしょうか?
多くの人が世界史で習ったであろう,メソポタミア文明だとかインダス文明だとか黄河文明だとか……
今の文明はそういったものが起源にあると言われていますね.
これらの文明は全て,河川を生活圏の基礎においています.
人は水とともに生きてきたのです.
ではファンタジー世界の人々は,遠い昔においてどのように文明を築いたのでしょう.
ファンタジー世界では,「高度に発達した古代文明」というものが登場することがあります.
私の世界でもそういった古代文明が登場します.
そういった世界では,比較的文明の成り立ちを考えるのが容易です.
ロストテクノロジーやオーパーツを紐解けば,過去の人々が残した知識が得られますし,遺跡などの構造物が建築の際に大きなヒントを与えることでしょう.
しかしこういった世界であっても,古代文明を遡れば必ずどこかに最初の文明が存在しているはずです.
そうした文明ができるまでにどのような過程があったのかを考えることは,その世界の「今」を描く上で欠かせません.
話を戻します.
地球上の文明の多く(または全て)は,河川を中心に誕生しています.
理由は簡単で,文明を築くためには水が必要だったからです.
ただの飲む以外にも,耕作を行うためにも水は必要です.
河川は作物を育てるために必要なだけでなく,ときに洪水を起こして土壌を改善したりもします.
水があっても,痩せた土地では作物は育ちません.
大規模農耕の誕生は,すなわち文明の誕生を意味します.
食べるために狩猟や小規模な農耕だけをしていては,建築業や製造業に時間を当てられません.
大規模農耕が十二分な食糧供給を保証することで,初めて人は文明を手にすることができるのです.
ちなみにメソポタミア文明などの古代文明の発祥の地を「文明のゆりかご」といいます.
逆説的に言えば,ゆりかごが用意されていない文明は,持続可能な文明とならずに淘汰されたということです.
文明が誕生するためには,河川が重要なファクターとなっているのです.
では魔法などの神秘が存在する世界においても,文明を産み出すために人は河川を必要とするのでしょうか?
私の答えは,半分YESで,半分NOです.
魔法や魔術などの超常現象は,文字通り「常」を覆すだけの意味を持っています.
すなわち,祈りは環境を克服しうるということです.
神話などでは,神々の奇跡によって山や海,川が生まれたりします.
神官や巫女が日照りを止め,暴風雨を鎮めることもあるでしょう.
作物の育たない土地ではそれを悪魔の仕業と断じ,生贄を差し出すことも考えられます.
こういった神話や寓話は,ファンタジーおいて現実のものとなります.
不毛の大地は,人々の嘆きと祈りで豊かな環境へと変貌する可能性が十分にあるのです.
河川のない環境でも,超常現象の元において人は文明を手にすることができます.
では河川が必ずしも必要ではないかというと,そうでもありません.
超常現象が存在する世界においても,人は常に「常」の中で生きています.
「常」と言うものはとても強制力の高いものです.
鳥は空を飛べても,人は空を飛べません.
物体は上から下に落ちますし,川は高いところから低いところへ流れます.
そのファンタジー世界が私達の世界を元に描かれる限り,この「常」は超常現象でしか破ることはできません.
河川を持つ人々は,超常現象にすがるしか文明を築く術のない人々と比べ,圧倒的なアドバンテージを持っているのです.
なにせ超常現象に頼る必要がないので,そこに祈るエネルギーを割かなくて良いのですから.
雨を降らせることに必死な人々には,日照りを起こす方法を生み出そうとは思いません.
木のない地域に住む人々は,森を焼く方法を考えたりはしません.
一方で,水もあれば森もある地域の人々は,天候を自由に操る術や資源をより多く生み出す術を欲することでしょう.
その時,人々はただの生存欲求から外れた「欲望」を手にします.
祈りの対象が「すべきこと」から「したいこと」に変わるのです.
これは大きなポイントで,河川を持つ文明は他の文明と比べて非常に強い貪欲性を内包します.
「生存」や「繁栄」だけでなく「挑戦」や「競争」,「探求」や「学問」など,より多くの目的が文明に生まれるのです.
こうした文明の方が,過酷な環境にある文明よりも強いのは明白です.
ファンタジー世界で主に「人」の文明として描かれるものは,このようにして生まれたのだと考えられます.
他種族が登場するファンタジーにおいても,「人間種は欲深い」という扱いがなされやすいのは,このような理由があるためだと私は思っています.
逆に,エルフやオークに代表される亜人種は,過酷な環境で文明を築いた人々が進化したものだと考えると非常に納得が行きます.
なにせ「亜人」と呼ばれるくらいですから,人が元になっているのは自明です.意図して作られたミスリードでなければ.
ここで注目するべきなのは,そこにいた「人」の進化は,ファンタジー世界においては必ずしも生物的でなくても良いという点です.
すなわち,魔法・魔術的な進化を遂げてもおかしくありません.
超常現象によって進化したのであれば,その種は他の種にとっての「超常」を纏います.
これらの種族は他者にとっての「超常」を自分にとっての「常」とすることで,自身を超常たらしめます.
エルフやオークはこのように進化したといって良いでしょう.
肉体的な老いという「常」をとどめる「超常」の寿命や,種族や遺伝子といった「常」を無視して生殖を行える「超常」の生命力.
また,妖精種は魔法・魔術的に進化した典型例といえます.
「小さな体に虫に似た羽を持ち,死んでも魔力で生き返る」
「花や植物などから生まれる」
「魔力が高く,魔法が得意」
「女王種がいる」
これらの設定は作品によって異なりますが,いずれも「超常」的な能力です.
妖精が生まれるまでに,その文明ではもしかしたら「虫のように生きる」ことが日常だったのかもしれません.
またこれら亜人種は文明を築けるだけの知能を持っているのですから,文明同士の交流が起きてもおかしくありません.
それが共存であっても,闘争であっても,です.
「エルフは交流を好まず,長寿」
「オークは野蛮で知能が低く,共存よりも一方通行の依存か闘争を選ぶ」
「フェアリーは比較的友好だが,恥ずかしがり屋」
などがありますね.
典型的なパターン以外にも様々な文明の交流がなされていることでしょう.
今回はこれで終わります.